Sound Park

楽しい「音-sound-」が集う「場-park-」でありたい

平成の終わり、某日。

岩手県紫波町で、とあるオンラインコミュニティが立ち上がることを聞きつけ、私は取材に出かけました。

インタビュー01

Sound Park(サウンドパーク)

「音楽」をキーワードに紫波町でうまれる「つながり」を、もっと気軽に、そして深く、つなぎ合わせるためのウェブサイト。

インタビュー02

音楽を奏でるひとや、聴くことが好きなひと、新たな音楽に出会ってみたいひと。

音楽に関わりのあるひとたちが、リアルにつながっていくことを、ネットの力を借りて支えていく。

オンラインが支える、リアル。

令和という新しい時代にふさわしい、そんなコミュニティが、ここに誕生したのです。

と、いうわけで。

Sound Park誕生にあたってのストーリーを、ちょこっと、のぞいてみようと思います。

岩手の真ん中に、ひとが「集う」町がある

紫波町(しわちょう)は、岩手県のちょうど中央に位置する人口約3万人の小さな町です。

県庁所在地の盛岡から30分ほど車を走らせると、田んぼを抜ける爽やかな風とともに、紫波町の街並みが見えてきます。

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基幹産業は農業。

町の中心を南北に貫く北上川をはさんだ盆地には田んぼが広がり、山へと連なる東西の農村部では、傾斜のある水はけのよい土地と適度な寒暖差を利用した果樹の栽培が盛んです。

インタビュー04

岩手県内では「フルーツの里」としてのイメージが強い紫波町。

特にぶどうは県内随一の産地として知られており、町内産のぶどうで醸すワイナリーも人気。

また、南部杜氏発祥の地としても知られ、小さい町ながら4つの酒蔵を有する日本酒文化の根強い町でもあります。

インタビュー05

OGAL(オガール)

そんな紫波町で、今。

話題を呼んでいるのが「OGAL(オガール)」です。

インタビュー06

オガールは、2007年から事業を開始し、2017年4月にすべてのハード整備を終えた複合施設。

紫波中央駅前に町が保有していた10.7ヘクタールの土地を、町と民間事業者とがタッグを組んで開発しました。

民間主導、公民連携という手法や、ほとんど利用されていなかった空き地に年間80万人が訪れるまでになった成果などが地方創生の成功例として注目され、自治体職員・議員による「行政視察」の受け入れ件数でも2016年度、2017年度と2度にわたり全国ナンバーワンに輝くほど。

今や、全国から注目される町になりました。

オガールの一番の特徴は、公共施設と民間施設の共存。

町役場や図書館、子育て関連の施設など、町が管理する公共施設のすぐ横に、カフェや居酒屋、産直市場 やアウトドアショップといったテナントや、保育所、病院、ビジネスホテルに至るまで、様々な店舗・施設が並んでいます。

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だから。

「図書館で本を借りるついでに、産直で夕飯の材料を買い出し」

とか、

「保育所へ子供を迎えに行った後、カフェでコーヒーをテイクアウトして広場で少しゆっくり」

なんてことが、できちゃうわけです。

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週末になると、町内外の作家さんが手づくりの小物などを持ち寄るマルシェや、広場を大々的に使ってのイベントなど、様々な催しが開かれ、日が暮れるまでにぎわいます。

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そう、オガールの使い方は無限大。

特に用事がなくても、ふらっと立ち寄りたくなる。

そんな、ひとが「集う」場所になっているのです。

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オガールでひとをつなぐ「図書館」と「情報交流館」

オガールが評価されている理由のひとつに、「つなぐ」という役割があります。

町で唯一の公共図書館である「紫波町図書館」は、「これからの図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている機関」に対して贈られる「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー」で2016年の優秀賞に選ばれるなど、その取り組みが注目されている図書館でもあります。

インタビュー13

司書の皆さんの自発的な試みにより、地域の歴史や産業に注目を集める企画や、本を飛び越えてひとと直接繋がれる講演会を催すなど、図書館が、ひとと情報をつなぐ、ひととまちをつなぐ、ひととひとをつなぐ、ハブ的な役割を果たしています。

また、図書館の入り口手前に位置する「情報交流館」も、オガールにある町の施設のひとつ。

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「スタジオ」と呼ばれる部屋がいくつも用意されており、予約して借用すれば、様々な活動に利用できます。

ミーティングや小規模の講座を開くのにぴったりな 小スタジオのほか、音楽練習のできる音楽スタジオや、料理ができるキッチンスタジオ、ライブやコンサートもできる大スタジオなど、用途も様々です。

インタビュー15 インタビュー16

施設利用の受付をしているカウンターには「コンシェルジュ」が常駐。

利用者を出迎えるだけでなく、使い方の可能性を提案するなど、ここでも施設と利用者を「つなぐ」役割を果たしています。

オガールの秘かな人気スポット、知っていますか?

そんな図書館と情報交流館があるオガールで、秘かに人気なのが情報交流館2階の音楽スタジオ、通称「SHIWA-STUDIO(紫波スタジオ)」です。

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情報交流館の施設の中でも特に利用率が高いというこの紫波スタジオは、公共施設の「音楽室」にありがちな「ほんのちょっと防音に気を使っただけの小さい会議室」みたいなレベルではなく、民間の音楽スタジオに引けを取らないほどの充実した設備が人気の理由。

備え付けのドラムやキーボード、マイクを借りてバンド練習をすることもでき、スピーカーやミキサーはもちろん、ケーブルで演奏を直接録音するライン録りができる機材も揃っています。

インタビュー18

練習をして、録音して、その音源をCDに焼いて・・・

なんて自主制作も、簡単にできちゃうわけです。

これだけの設備でありながら、使用料は1時間350円。

大学時代はアカペラに明け暮れていた私も、当時はバンド仲間と一緒に民間の音楽スタジオを利用していましたが、5~6人で割り勘してやっと日常使いできるくらいの価格だった記憶があります。

紫波スタジオだったら、個人練習でも気軽に使うことができますよね。

こんな施設、欲しかったなあ。

使う人によって、いろんな使い方

バンド活動中の中高生など若いひとの利用はもちろん、生涯の趣味として長く音楽を楽しんでいるような年配の方まで、様々な世代から幅広く支持されている紫波スタジオ。

スタジオの前には手づくりの掲示板があり、「バンドメンバー募集!」といった文字も並んでいます。

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ここにも、「つなぐ」仕掛けがあるわけですね。

また、驚くべきことに、紫波町図書館には楽譜やバンドスコアの蔵書も充実しています。

公共の図書館って、初歩的なコード譜やピアノの練習楽譜、童謡や懐メロのようなものの楽譜しかないのが普通だと思っていました。

こちらには、今を輝く最新アーティストの楽譜も取りそろえられているので、スコアを買う余裕がなくても、図書館で借りてそのままスタジオで練習、なんてことができちゃうのです。

舞台も、開かれている。

さらに、情報交流館の中には150人が座れる観客席をもつ「大スタジオ」もあります。

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この「大スタジオ」や、1階の開けたスペースである「市民交流ステージ」を借り切ってライブやコンサートを催すことも可能なんです。

紫波町内外のアーティストに声を掛け、定期的にライブイベントを開いている方もいらっしゃいます。

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こんな距離感で、フラットに音楽を楽しむことができるのは、オガールならでは、なのかもしれません。

この場所にとって、そして、紫波町にとって「音楽」はとても身近で、切っても切り離せないものとなりつつあるようです。

インタビュー22

ただ、音楽スタジオの利用は多いというものの、残念ながら、ライブやコンサートが頻繁に開かれている!というわけでもありません。

普段まちにいて「音楽」に触れる機会は、思いのほか少ないようにも感じます。

紫波町にとって、音楽って?

そのへんのところ、詳しく聞きたいなぁ・・・。

ということで、情報交流館で「コーディネーター」を務める松本秀人さんにお話を伺いました。

インタビュー23

紫波町出身の松本さんは、音楽を生業とし、ギターとコーラスで奏でるアコースティックデュオとして メジャーデビューするなど、第一線で音楽活動をしてきたひとり。

現在も、アーティストのサポート演奏などを務める傍ら、情報交流館では自身の経験を活かしながら音楽スタジオの利用者や、オガールでライブやイベントを開催するひとたちを支えています。

情報交流館が「音楽」をハブに「つなぐ」役割を果たす上で、キーマンとも言える存在です。

リアルな音楽で「つながる」を支えたい

━紫波町には、音楽を楽しんでいるひとが多いと思います。

開口一番、松本さんはそうおっしゃいました。

インタビュー24

日頃から紫波スタジオを利用する様々なひとたちを見ている松本さんは、レベルの高い演奏をしている 利用者もたくさんいると語ります。

時に、気になったバンドに声を掛けてライブの企画を促したりすることもあるそうです。

やっぱり、生の音楽にはチカラがある。

一般的に、CDなどの音源で聴く音楽よりも、ライブなどの方が、興奮したり、感動したりするのは、その音楽を包む「空気感」や、音の裏側や行間にひそむ「ストーリー」が心に響くからなんだと思います。

目の前で演奏するリアルな音楽は、そこに居合わせた人の心をぎゅっと掴む何かがあるのです。

インタビュー25

それに、何より

人前で演奏することは、演奏する側にとって本当に楽しく、そして嬉しいものです。

せっかく、音楽スタジオというリアルな場で音楽を楽しんでいるのだから、もう少し外に出て、その楽しさや嬉しさを感じてみたら?とのこと。

きっかけは、一歩踏み出すこと。

想いを内に込めてしまうのは岩手の県民性なのかもしれませんが、

「自分たちなんて・・・」

と恥ずかしがって、人前で演奏する楽しさを経験しないでいるのはもったいないですよね。

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もしかしたら、ほんの少しの勇気から、そんな小さな一歩から、プロを目指すようなバンドが生まれるかもしれません。

生涯楽しめる趣味や、かけがえのない仲間を得ることができるかもしれません。

音楽が、夢を広げてくれるかもしれないのです。

企画マンは利用者自身。

あくまで、主体となるのは利用者。

利用者が、やりたいことをやるための場として、ここを使ってほしい。

それが情報交流館のスタンスであり、コーディネーターとしての松本さんのスタンスでもあります。

でも。

利用者が夢を叶えるためのスタートアップを、精一杯、応援してあげたい。

インタビュー27

そう語る松本さんの目は優しく、しかし同時に、とても熱いものを感じました。

好きなものを「好き」と言えるまちへ

松本さんからお話を伺って、印象的だったことがあります。

それは、利用者の皆さんが本当に純粋に、音楽を「楽しんでいる」ということ。

━音を、楽しむ。

そんな音楽の本質が、ここで感じられる。

ということでした。

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松本さん自身も、音楽と出会った時の興奮や、夢中になって、のめり込んで練習した記憶はいつまでも忘れられないと言います。

この楽器を弾いてみたい。

こんな曲を歌ってみたい。

少しでもうまくなりたい。

誰かに聞いてもらいたい。

たしかに、そんな想いが伝わってくる、音楽に対する「好き!」が溢れ出すような演奏には、心を打たれます。

・・・それって、音楽じゃなくても同じですよね。

「好き」を言葉にしたり、何かで表現したりすることは、日本人の苦手分野かもしれません。

でも、その「好き」から何かが始まったり、つながりができたりすることも、きっとたくさんあります。

インタビュー29

紫波町が、そんな「好き」を表現できるまちになったら、素敵だなあと思います。

まずは、音楽から。

ただ・・・

もしかしたら、リアルでつながるって少しハードルが高いかもしれません。

たまに顔を合わせるあのバンド、どんな音楽やってるんだろうなぁ・・・。

自分の好きな音楽に合う仲間と出会いたいなぁ・・・

そんな時、ネット上で、練習風景を映した動画を見ることができたり、書き込みを読んだりすることができたら。

また、ライブやイベントで顔を合わせた仲間と、

毎回一緒に練習できるわけじゃないけど、いつかまたセッションしたいなぁ。

なんてこともありますよね。

そんな、ちょうどいい距離感でつながれることも、オンラインならではかもしれません。

紫波スタジオの前に置かれた、手づくりの掲示板。

インタビュー30

あのぬくもりは、そのままに。

でも、これからの新しい時代を歩んでいく上で、オンライン上でのコミュニティがあってもいいよね。

と、そんな想いでSound Parkは立ち上がったのだそうです。

好きなものを「好き」と言えるように。

好きな音楽を「好き」と言えるように。

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Sound Parkは、その第一歩を支えてくれる存在になりそうです。

(Text/Photo:平 真弓)

茨城県つくば市生まれ。2017年より岩手県紫波町に移住し、現在は紫波町地域おこし協力隊として活動中。写真撮影、文章執筆、傾聴・対話が得意。趣味はカメラ、旅、ギター弾き語り、アウトドア、スノーボードなど。子どもが大好き。「誰もが自分らしく生きられる社会」を実現するために、子どもたちが地域の中で多様な人や経験と出会える環境をつくることが夢。紫波町を拠点に“あそび”の企画を仕掛ける「あそびCOM」を運営している。